歯の周りのマイクロビオーム
我々人間は常在菌と共に生きています。この常在菌は駆逐することが不可能です。いわば体の一部です。この常在菌のことを「マイクロビオーム」といいます。
腸内を例にとれば、善玉菌といわれる常在菌がいると有益なのはご存じのことと思います。これは、マイクロビオームとの友好関係が保たれているということです。ひとたびそれが崩れると、下痢をしたり、炎症を起こしたりします。
このようなことは、歯周病にも当てはまります。歯の周りも、マイクロビオーム(プラークやバイオフィルムと言われるもの)が存在します。マイクロビオームとの友好関係が保たれている場合、歯周病は発症しません。この関係は、細菌の毒性と我々の抵抗力の微妙な釣り合いのもとに保たれています。
この関係を維持させるには、マイクロビオームの毒性を上げないようにし、私たちの抵抗力をキープすることが大切です。これは、歯周病の予防法とも治療法なるものです。
バイオフィルムについて
歯の表面には、歯ブラシをして付着物を取り除いても、しばらくするとたんぱく質の膜が付着します。そこに初めの常在菌が付着し菌塊を形成します。ここに、歯周病菌が付着してさらなる菌塊を作ります。この歯周病菌も常在菌なので、一度感染し定着してしますと駆逐することはできません。
この状態になると、細菌は菌体外重合物質というバリアを作ります。このため、外部と隔離され様々な細菌が集合住宅を作り成熟していきます。この集合住宅がバイオフィルムです。バイオフィルムは3日くらいで完成します。
ただし、この時点で必ず歯周病が発生するとは限りません。その成立には、私たちの抵抗力やバイオフィルムの毒性などが密接に関係するからです。友好関係が崩れないように、健やかなバイオフィルムと暮らすことが重要なのです。
バイオフィルムの悪性化
私は1日3回ブラッシングをしているから大丈夫!と思われていませんか?私たちのブラッシングには、得意な場所と不得意な場所があります。つまり、みがき残しです。この場所には、バイオフィルムが何週間、何か月間ついているかもしれません。このようなところで、バイオフィルムは悪性化していきます。
まず初めに歯肉表面の変化が起きてきます。縁のところが少し赤く変化するということです。これは、初期の歯肉炎の状態。歯肉に限局した炎症です。年齢が若いとこの状態でキープされることもあります。おそらくは抵抗力のためと言われています。ただ年齢が進むとその次の状態、歯肉炎の確立期に移行します。
この状態になると、炎症により血管透過性はさらに亢進、歯肉は浮腫を起こし腫脹して赤く腫れあがるようになります。この状態になると、歯肉の溝は歯肉が腫脹するため深くなり、溝の底は酸素濃度が低くなります。この酸素濃度の低下が、実はバイオフィルムの悪性化に密接にかかわってきます。
嫌気性菌の育ちやすい環境が、歯周病の増殖にかかわっているからなのです。ただし、ここまでの状態であれば、ブラッシングの改善でバイオフィルムを取り除けば歯肉炎は完全に元の健康な状態に回復できます。この状態を早期に発見するためにも、定期的な受診が重要と言えるのです。
歯周病と全身の健康について
最近はメディアでも、歯周病と関係のある体の疾患について、取り上げらるようになりました。
例えば、糖尿病にかかっていると感染に対する抵抗力が衰え、傷の治りも非常に悪いことが知られています。このことから歯周病も重症化しやすく、コントロールしにくいことが言えます。その上、歯周病菌やその毒素が血管から体に入ると、インスリンが働きにくい体の状態を高めて、糖尿病を悪化させる可能性が指摘されています。
心筋梗塞に関しては、歯周病かかっていると、2~3.5 倍発病リスクが高まるといわれています。このリスクは、歯周病が重篤になるに従い高まることも報告されています。歯周病によって産生されたサイトカインが血管を介して心血管に波及するためといわれています。
そのほかにも、低体重児出産や呼吸器系疾患等々、いろいろ言われています。因果関係が明らかになっている疾患もあれば、解明中のものもありますが、お口の機能を使い食事・栄養を摂取する私たちにとって、お口の健康がさまざまな病気に関与していることは確かと言えると思います。
新型コロナウイルス感染症と付き合う現在において、体の免疫力を高めたいと考えている方も多いことと思いますが、大切なのは、体の慢性疾患も歯周病も、それをコントロールすることだと考えています。
歯周病は、自覚症状が著しく低い疾患ですが、普段から地道にコントロールしていかなければならない疾患なのです。皆様の健康を守るためにも、定期的に歯科医院を利用してもらえたら幸いです。